血管内皮機能検査としてのFMD測定との出会いは、10年近くさかのぼる。
当時は2002年に欧米でガイドライン(JACC, Vol.39, 2号. 16/Jan/2002,P257-265)が発表され、4年後の2006年には日本語版ガイドライン(Jpn J Clin Pharmacol Ther 38(5) Sep 2007)が発表された。そのようななか、腎臓内科医師より透析患者のQOL改善の指標としてFMD測定の打診があった。数少ない文献を頼りにプローブの位置や固定方法など工夫をし、まずは看護師や検査技師のボランティアを募り健常者のデータを収集することにした。
健常者の中でも、年齢と喫煙の有無で有意差があり、喫煙が大きなリスクであることを再認識したことを覚えている。
透析患者へのFMD測定は、「お誕生日検査」として年一回行うこととした。
透析患者においては透析導入からの経過時間(年)に相関したが、経過年数が長いということは年齢も重ねており、透析導入からの経過年数が血管内皮機能を低下させる単独因子としての位置付けは難しかった。さらに透析患者は糖尿病・動脈硬化など多くのリスクファクターをもち、一般的な介入では血管内皮機能改善は難しいと感じた。また、時を同じくして起案医師の異動により透析患者へのFMD測定は中断してしまった。
今回2011年8月より当センターにおいて心臓リハビリテーションを開設することになり、食生活をはじめとする生活習慣改善や運動療法効果の客観的指標として、血管内皮機能検査としてのFMD測定が活用出来ないか相談を受けることになり、FMD測定の復活となった。
「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改訂版)」においてもエビデンスレベルCではあるが、運動療法は末梢動脈血管内皮機能を改善させると言われている1)。
心臓リハビリテーションとは、「運動療法を主体として、患者教育・生活指導およびカウンセリングによる包括的なプログラムによって、身体的・精神的デコンディショニングの是正と早期の社会復帰を図ること」と定義されている2)。
つまり、心臓病によって低下した体の機能を高め、活動時の症状を軽減するとともに、安全に活動できる範囲を設定し、抑うつや不安を解除し自信を回復させ、心臓病の悪化による入院の予防、生活の質の向上、さらには寿命を延長させることを目指した治療プログラムである2)。医師、理学療法士、看護師、薬剤師、臨床検査技師、管理栄養士、臨床心理士など多くの専門医療職がかかわって、患者さん一人ひとりの状態に応じたリハビリプログラムを提案・実施して行くチーム医療の一環である。
心臓リハビリテーションの対象疾患は、虚血性心疾患である心筋梗塞や狭心症、様々な心臓病に対する手術(開心術)後、慢性心不全(安定期にあるコントロールされた心不全NYHAⅡ・Ⅲ)、大血管疾患である大動脈解離および閉塞性動脈硬化症が対象疾患である。
当センター運動療法の様子
当センターでは、入院中の心臓リハビリテーションは、医師の指示のもと理学療法士と病棟看護師が協力して運動療法や生活指導を進め、毎朝の病棟カンファレンス(参加者:医師・病棟看護師・理学療法士・看護助手)にてリスクや現在の運動機能などの情報共有を図りながら進めている。
外来では、心臓リハビリテーションの初回に問診・血液検査・体成分測定・血管内皮機能検査(FMD測定)・ABI/baPWV・筋力測定・体力測定(CPX)を実施し、その結果に基づいた個人の目標や、運動強度の設定を行いその後、週1~2回3ヶ月間のリハビリテーションを行う。最終日には再び血液検査・体成分測定・血管内皮機能検査(FMD測定)・ABI/baPWV・筋力測定・体力測定(CPX)を実施し心臓リハビリテーションの総合評価を行う。この結果から自宅での生活習慣改善や運動習慣継続の確認を行い卒業となる3)。
可能であれば卒業後3ヶ月後に再度、血液検査・体成分測定・血管内皮機能検査(FMD測定)・ABI/baPWV・筋力測定・体力測定(CPX)を行うことによって患者の自宅での継続性の評価を行う。
心臓リハビリテーションは①体への効果、②精神面や生活の質に対する効果、③病気の悪化を予防するなどの効果が期待される。
運動することにより、酸素の取り込み能力が向上し、運動能力が高まり楽に動けるようになる。また気持ちいい汗をかくことにより気分の高揚が得られ不安や抑うつから開放される。予防としては心筋梗塞後の再発や死亡率を減少させ(死亡率は20%低下)、心不全においても再発や死亡率の低下をもたらすとされている。
このように心大血管疾患における運動療法の効果は大きく期待されるが、客観的に運動療法の効果を評価することは難しい。しかしながら、先行研究により血管内皮機能は心不全の重症度や死亡率の独立した予測因子であること、急性冠症候群患者に対する心臓リハビリテーションによる運動耐容能向上と血管内皮機能改善効果は正相関することなどが報告されている。
当センターにおいても、心臓リハビリテーション開始時・終了時、及び終了3ヶ月後に血管内皮機能を測定・評価することにより、再発や再入院の予測、積極的な運動療法の介入への活用を考えている。
当センターにおいて、心臓リハビリテーションでFMD測定を開始して約1年が経過した。
運動療法前と運動療法3ヶ月実施後の%FMDは個人でみるとあがった人もあり、ほとんど変化しなかった人もいる。また、中には運動療法前より下がった人もみられる。
運動療法後に%FMDが改善した22例で見てみると、運動療法前と後では統計的有意差はあった。
確かに統計的有意差があり、運動療法が血管内皮機能を改善させることは推測できるが、上記の如く運動療法前より下がったケースも見受けられ、何らかのバイアスが含まれることも示唆され、まだまだ単独で運動療法の効果を判定できるまでには至っていない。
しかしながら、統計的有意差の意味するところは運動療法を含む継続的生活改善の介入により、血管内皮機能の改善が期待され患者のQOL改善に有効であること、それをFMD測定によってモニターできることを意味しているものと考える。
FMD測定は上腕動脈の内径(血管内壁のどの部分を計測するのかはまだまだ議論の余地がある)を超音波診断装置でリニアプローブを用いて計測する。以前はプローブの固定が難しく計測には熟練が必要であったが、固定器具(MIST-100H)が開発され上腕へのプローブの固定は安定し計測に集中することが可能になった。しかしながら患者によってはエコーの特性上血管近位壁の描出が不鮮明で内膜の同定が難しいケースも散見される。計測に適切な血管壁と上腕部位を探し、超音波診断装置の微調整などはまだまだ検査実施者の技量に負うところが大きく、それゆえの計測誤差も存在することは事実である。
今後、計測誤差を小さくするために施設内での手技の統一や知識・技術の共有化が必要であり、機器のさらなる開発により誰でも容易にFMD測定をすることが可能となれば、多くの施設で測定されるであろう。そして沢山のデータが提供され、心不全や他の心血管疾患患者の予後改善、再発予防に活用されることが期待される。
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